Shell moon のえんぱいあな日々 第四話 UNDER/SHAFT

 
テーマ曲「UNDER/SHAFT」

〇前話


エリーザ:
こちらが、來奈評議員の控え室になります。

來奈:
……ふふ、悪くない部屋ね。

由美恵:
……えっ……

由美恵:
こ、これが会議に参加するオーナーの控え室……? すごく豪華ですね……

エリーザ:
こちらは、オーナー連合の中でも評議員専用に用意された控え室になります。
一般のオーナー参加者とは別でして、非公開の簡易会談などにも使われるお部屋です。

エリーザ:
総会は数日にわたるのが通例でして、短期間だけ参加される一般オーナーとは異なり、評議員の方々はほとんどの日程に出席なさいます。そのため、お付きのメイドとともに宿泊できるよう、こうしたお部屋がご用意されています。

由美恵:
お付きのメイドと……夜を過ごすために……天蓋付きの広いベッドが一つ……

エリーザ:
そのあたりは……エンパイアクラブですから♪

エリーザ:
こちらのお部屋には専用のお手洗いに加え、白山市の街並みを一望できる展望風呂がございます。ジャグジー付きでございますよ。

由美恵:
す、すごい……。さすが評議員様専用のお部屋ですね……。これ、公務員だったら税金の無駄って叩かれそうなレベルの豪華さです……まさにクラブハウス……

エリーザ:
はい、その通りでございます♪

來奈:
このパイ、おいしそうだけど……食べていいのかな?
もし大丈夫なら、他のオーナーの到着までまだ時間あるし……。

エリーザ:
はい、もちろん召し上がってくださいませ。
日本の旅館でお部屋に置かれてるお菓子と同じようなものですね。本日は確か、かぼちゃのパイだったかと。

來奈:
うん、じゃあお茶にしようかな……かぼちゃなら、コーヒーの方が合うかも。

エリーザ:
かしこまりました。すぐにお淹れいたしますね。

由美恵:
あのっ……場所を教えていただければ、私がお淹れします!

エリーザ:
まあ、そうでしたね。由美恵さんは來奈評議員付きの侍従でしたものね♪
つい私、スプロールの中でもこちらの地上世界でも、どちらでも侍女をしているものですから……手が出ちゃいました。

由美恵:
あの……エリーザさんは、地上のご出身じゃなくて、スプロールGRID連合の方なんですか?

エリーザ:
はい、わたくしはオリュンポスGRID連邦にて、アプロディーテ様の神殿で神官兼侍女を務めております。
由美恵さん、ご友人に星界の方がいらっしゃるのですね?

由美恵:
はい。メイド学校の同期に、オリュンポス連邦から来ていた電脳女神のメリーとアナエルがいます。
その子たちから、星界のことを少し教わりました。

エリーザ:
まあ、アナエル・スカリジェ様──星界名は電脳女神セレーネ様──と、鹿苑寺メリー様──星界名は電脳女神メノイエ様。アナエル様はわたくしのご主人様の妹君でもあります。メリー様はそのご友人です。 お二人のこと、よく存じておりますわ♪

そのお話の続きの前に……まずはご主人様にコーヒーをお淹れしましょう。きっとお待ちかと思いますので♪

來奈:
待ってるわけじゃないけど、ゆっくりでいいよ。
でも──美味しいコーヒー、期待してるからね♪

由美恵:
ひゃっ…! も、申し訳ありませんご主人様っ!
すぐにお淹れしてまいりますっ! エリーザさんっ!

エリーザ:
ふふ、お部屋専用の給湯室をご案内いたしますね。どうぞこちらへ♪

由美恵:
は、はいっ!

由美恵:
ご主人様、おかわりです。どうぞ。

來奈:
ありがとう、由美恵。

ソニア:
警備は万全です。
極東司令部直属、司令長官付きの特殊作戦群から派遣されたエリートメイドが、衛兵として直接配置されています。
私が出張るまでもないくらいで…そのぶん、こうしてご主人様のところにちょくちょく顔を出せる余裕もありますけどね。

ソニア:
今回の総会、エステル議長が突然、緊急招集をかけたので……
オーナーたちが全員いつ揃うのか、正直不明です。

來奈:
揃わないと総会、始められないでしょ?

ソニア:
それが……皆さん急いで日本に向かってはいるんですけど、
鹿苑寺卿みたいにプライベートジェット機を持ってるオーナーばかりじゃないんですよね。

由美恵:
いくらエンパイアクラブのオーナー様でも、
国際空路を自由に横断できるジェット機をお持ちの方は限られているかと…

來奈:
私も持ってないよ……持ってるほうがヘン。

ソニア:
ご主人様のあのインチキっぽい特殊三段飛行甲板の航空揚陸母艦、
ジェットエンジン付きで、太平洋どころか地球一周できそうですけど?

來奈:
あれは私個人で動かせるもんじゃないし…。

由美恵:
ひこう…ようりく…ぼかん?
な、なんですかそれ…?

ソニア:
それはともかく――
今回の臨時総会、開始のタイミングも未定ですし、
何日かかるかも分からない以上……これはもう、泊まり決定ですね。
私は警備宿舎に割り当てられてるので、そっちに泊まります。
夜間の警邏もあるので。
由美恵はこの部屋で、ご主人様と一緒に泊まってください。

由美恵:
えっ!? こ、ここに…ご主人様と…お泊まりですか…!?

ソニア:
ですね。時間があるうちに、下のショッピングモールで
下着とか買ってきた方がいいですよ。
近くて便利ですし。
ご主人様も由美恵も、早めに買い物済ませた方が良さそうです。

來奈:
……クラブに戻れないのか……
ソフィアと美紗季さんに絶対イヤミ言われるやつ……。

ソニア:
それもご主人様のお仕事のうちです。頑張ってください♪

二人とも來奈と電脳通信

美紗季:
ふーん、今夜は確実にお泊まりで、明日も未定? 何日になるかも分かんないんだ。

ソフィア:
こっちは予想外のトラブルでてんてこ舞いなのに…そっちは優雅に豪華なお部屋でのんびりですか?

千沙:
えっ、由美恵ってご主人様とソニアさんと一緒に臨時総会に行ったの? もう現場で働いてるなんて、すご〜い! さすが由美恵だね。

こずえ:
でも仁香もさ、さっき美紗季さんが言ってたけど…昨晩サロンでお仕事したんだよね? メイドになったばかりなのに。

仁香:
あ…うん。悠名やマーニー、パニーたちがずっとそばにいてくれたから…。私はただ、飲み物を運んだり、オムライスに絵や文字を描いたり、お客様を席にご案内しただけなんだけど…

千沙:
えぇ〜!? メイド学校どころか、研修もまだなのに…初日でそれって、由美恵よりすごいかも!

仁香:
だから…ご主人様のお役に立ちたくて…つい、必死になっちゃって…

こずえ:
その気持ちをすぐに行動に移せるのがすごいのよ! ドクターソフィアの専属メイドになるくらいの子だもん、納得かも。

仁香:
はぅ…っ(真っ赤)

千沙:
ドクターに助けられたメイドって多いし、憧れて専属になりたいってお願いした子も何人もいたけど、全員断られてるんだって。私が直接してるだけでも三人ほど断られてるし。

仁香:
やはり…ご主人様は…モテルんですね…

こずえ:
千沙はね、私たちと同じで保護されてそのままクラブ入りした子たちとも仲良しなの。メイド学校って行く子の方が少ないし、行かなくてもメイドにはなれるし。

千沙:
友だちは多い方が楽しいしね!

仁香:
そ、そうですよね…はぁ〜…

モニカ:
ここが…本物のエンパイアクラブのサロンなんだ。やっぱり、メイド学校の練習用サロンとは全然違うね。

ミーサ:
当たり前でしょ? でも…想像以上に豪華だね。

アニエス:
ここが…エンパイアクラブ・シェルムーンのメインサロン…

パンパンっ♪(綾子が手を叩く)

綾子:
みなさーん! 注目です!

スザンヌ:
今から引率の梨花先生からこれからの予定についてお話があります! 先生お願いします!

梨花:
スー、なんで私が先生なのさ…

ソフィア:
昨晩、仁香が働いたのが向日葵さんに伝わったらしくて、サロンでのウェートレスとかキッチン担当なら新人研修にもなるからって、梨花さんが引率して連れてきたのよ。

美紗季:
でも宿舎の部屋がまだ用意できてなくて、それも研修の一環として自分で整えさせる予定なの。
……おかげでこっちの段取りはもうメチャクチャ。

そのぶんEHDENにはForestのさな料理長と花梨副料理長、それに亜美総務部長と陽菜乃副部長が来てくれるから、まあ交換条件ってことで。

研修自体は、EHDENで不要になった梨花営業本部長と、大使館だとこういう時は邪魔でしかないスーが担当するって話よ。

梨花:
おい美紗季、何てこと言うのよ! 聞こえてるってば!

スザンヌ:
美紗季お姉ちゃん、ひどすぎ!

綾子:
ふふっ、でもあのForestの亜美総務部長と陽菜乃副部長がいれば、梨花さんがいなくても何とかなっちゃうのも、スーがこういう時に大使館で浮いちゃうのも、まあ事実ですし。

スザンヌ:
綾子! それは口に出しちゃダメなやつ!

新人メイド達・仁香:
……(苦笑)

來奈:(電脳通信)
まあ…がんばってね。

由美恵:
あの……蘭子さん……私の下着、やっぱり大胆すぎませんか? ほとんど透け透けでしたけど……

蘭子:
それは普段用じゃなくて、お泊まり用の勝負下着だから。そういうのは何枚か持ってたほうがいいのよ。

由美恵:
そ、そういうものなんですか…

ソニア:
私なんて今、相手もいないしね……そういうのは、ちゃんと恋人がいる蘭子の言うこと聞いとくのが正解だよ。

由美恵:
蘭子さんって……グレイスさんのお姉さん、エミリーさんとお付き合いしてるんですよね? エミリーさんって、どんな方なんですか?

蘭子:
一言で言うなら、「白髪の死神」ってあだ名がついてた衛生メイド。でも本性は、カメリアコンプレックスとシスターコンプレックスの合わせ技な、ちょっと異常な人。

ソニア:
エミリー先輩、グレイスのいる家のクラブと、フロリーがいるすみれさんのクラブには出禁だからね。妹ふたりが「命の危険がある」って判断されたらしいし。

由美恵:
カメリアコンプレックスは、なんとなく衛生メイド系に多そうな……属性っていうか。でも、実の妹が危険って……それってシスコンの域、超えてませんか……?

蘭子:
次は夜の道具のお店ね。急なお泊りで、持ってきてないでしょ? 一緒に使う相手と相談しながら選んだほうが失敗しないし、今後買い足すときの参考にもなるから。

來奈:
そ、そうだね……。実物見て買うのって、もしかして初めてかも……

ソニア:
わ、私も実はちょっと興味あります……ご一緒します。ええ、もちろん警護として、ですけど!

由美恵:
えっ? 夜に一緒に使う……って、な、何のお店なんですか……?

SE:
ズゥキューン(ビームライフルみたいな音)

SE:
シャンッ!

構造物の上面を光になった弾頭が突き破り、
構造物を盾にしていた戦車に突き刺さる。

ドカーン!

美月:
タンクが隠れた構造物ごと、安全な上空から破壊……いや、消滅させた…

菜乃:
それも一発で…
これ実戦だったら、周囲にいる兵士も――
オーバードライブ使っても、絶対に離脱する前に蒸発する…

優:
マニュアルで読んでたけど…
戦車より装甲があって、火力は要塞陣地砲なみ、
それが戦闘ヘリを超える機動力で飛び回るとか…
もう戦場の悪魔じゃん…。
こんなので戦争したら、世界が滅ぶよ……

(小声で)
こんなの私、ナビゲータとして乗るの……?

梨緒:
効果抜群ですね。
良いように――恐慌状態になっています。

梨乃:
いや、まだ足りない!
ここはイシュタルを持ってきて、
バスターランスランチャーをぶっ放して!

梨緒:
奥様――
あの大砲は核攻撃なみなので、
絶対にヤメテ下さい。

梨緒:
みんな、これが――
守人(もりと)の「リミッター」が付いてない時の動きと火力。
もし、こんなので本気の戦争をしたら?

美月:
確実に、世界が滅びます

梨緒:
それを――どうにか止めるためにあるのが、
君たちが志願した――

私たちの部隊『ロンゴミリアド』だよ。

梨乃:
…説明、梨緒ばっかり…。
ズルイ…。

梨緒:
奥様、ズルイとは何ですかズルイとは。
奥様が説明すると――
アーマーメイドが実際にどうしたら世界を滅ぼすような事になるのかとか、
アーマーメイドの性能がどうのこうのとか、
実際に止めるためには企業としては、スプロールとしては、とか――
複雑すぎるんです。

(ちょっと鋭く)
――そういうことを言おうと思ってませんでしたか?

梨乃:
ぐにゅ……
そういう経過が大事で……

梨緒:
この子たちには今は良いんです。
まずは直感で解ってもらうことが大事。
理解は後です!
奥様は教えることが苦手な自覚、あるんですから――
大人しくしといて下さい。

梨乃:
だって……これじゃ梨乃がいる意味ないじゃん……

美月:
かぁ……可愛い……くっすす……あっ! スイマセン!

優・菜乃:
……(苦笑)

咲夜:
パイロットは大体の動きをすれば勝手に補佐が入るのか……
細かい動きや自由な機動はできないな……

悠名:
それに出力が低いし、リアクタープールの効率が悪い。
長距離の要撃とか無理。
これは「戦略兵器」じゃなくて「戦術兵器」。戦術機だね。
使い物にならない。
単騎で「国家レベルを滅ぼせる」のが「アーマーメイド」なのに。
こんなの玩具だね。ダメダメ。

咲夜:
悠名、絶対にそれを設計者のお嬢様に言わないでね……
そういうことには繊細だから。

悠名:
悠名はこの機体……なんか嫌い。
今回のデモはするけど、もう乗らない。

咲夜:
それもお嬢様に言わないで……
死ぬほど落ち込むから……

梨乃:
咲夜ーっ! 悠名ーっ! おつかれさまぁーっ!

美月:
近くで見ると……ほんとに大きい……。
こんなので、あんなスピードで自由に動いて……
しかもあんな弾を地上に好き放題撃てるなんて……。

優・菜乃:
……(無言で見上げている)

梨緒:
これで、オーナー様たちを…説得できればいいんだけどね。

守人が、黒い影と共にゆっくりと降下し、テラスの前に着地する。
ガシャンっ!

ゴンっゴンっゴンっ !プシューーー!

 
由美恵:(真っ赤)
ここですかっ?
ここって「そういう物」が売ってる専門店ですよね!
確かに夜ご主人様と一緒に使うものだけどぉ!

ソニア:(小声でブツブツ)
・・・購入したものを蘭子に渡してEHDENのエミリー先輩と蘭子の部屋に置いといてもらえば帰りに取って・・・よしどうにかなる‥

來奈:
女性用は二階か…私達先に入ってるから二階にいる。 ソニア行こう。

蘭子:
どうぞお先に。由美恵が落ち着いたら入りますから

ソニア:
はい、ご主人様参りましょう!

蘭子:
お泊まりが数日続くってさ。
それに、いつも使ってる道具も持ってきてないらしくて――
ねぇ? 今回はご主人様を独り占めじゃない?

由美恵:
ご主人様を…独り占め……はうっ!

蘭子:
夜はご主人様に由美恵を一杯愉しんでもらって、昼間は大事な会議に集中させるのが専属侍従メイドとしてのお勤めだと蘭は思うわよ。

由美恵:
そうですよね……専属侍従メイドとしてのお勤め…せっかくの夜伽のご奉仕……
ご主人様に、いっぱいいっぱい楽しんでもらうのが……
はう…いっぱい……

由美恵:
ご主人様に……いっぱいいっぱいイって果ててもらって……
さらにイかせて……ふぅ~♪ あぁ、私、もっと頑張らないと…はぁはぁ♪

蘭子:
ちょっ…ちょっと由美恵? 目がヤバイ…何妄想してるのか、大体解るけど!

蘭子:
正気にもどって!?
そっと肩をやさしく叩く

由美恵:
あれ? わたし…

蘭子:
とりあえず店内に入ろう。

由美恵:
はい。

蘭:
(この子、性欲暴走機関車タイプだわ……
ソニアから聞いてたより、全然ヤバい娘(こ)……
優萌なみかも…來奈、大丈夫かな……)

由美恵:
はわぁっ……こ、これって体操着とブルマ?
体操着、胸しか隠れてないし……ブルマも……穴が……。
あ、あのっ……こ、こういうのって……やっぱり、喜ばれるものなんでしょうか?

蘭子:
うん、まあ……そうだね。
あとね、学園の服でやっちゃうと、あとが色々大変だから……ちゃんと専用のものを用意しとかないと、その場のノリだけでやると……後悔するから。

由美恵:
なるほど……その場のノリで後悔……気をつけます…… 

蘭子:(小声・ボソッと)
……自分で墓穴掘ってんじゃん、私……。

由美恵:
超オススメ……?
このピンクの、なんだか可愛い……。
えっ、な、なんでリスさんがこんなところに……?
こっちの液体洗剤っぽいのは……ローション?
香りが……全部ちがう……はぅぅ……。

蘭子:
ソニアと來奈、どこ行ったんだろ。
ここ、商品多すぎてちょっと迷路っぽいよね……

メリー:(声だけ)
初心者の方でしたら、まずはこちらから試してみるのがよろしいかと♪

メリー:
ソニアさん、お一人でお使いになるのでしたら、挿れるときに見えづらくなりますし、少し細めの方が扱いやすいかと♪

來奈:
ちょっとお値段は張るけど、このブランド好き。
日本製なのに海外でも普通に買えるし、女性人気も高いのよね。

メリー:
ええ、こういったお品はやっぱり日本製に限りますわ。

ソニア:(顔真っ赤・苦笑)
そ、そう……なんですね……
(えっ、なにこの高級美容器具を選ぶノリで電動ディルト語る超セレブ二人……意味わかんない……)

由美恵:
メリー? どうしてここに……?

蘭子:(唖然・困惑)
(な、なんで鹿苑寺卿のメリー奥様が「こんなところ」にお一人でいらっしゃるの……!?
しかも、何してるの……)

メリー:
急なお泊りになりまして、信久さんに使うエネマグラとローションを買いに来たんですの。
そしたら偶然、來奈様とソニアさんにお会いして♪

來奈:(小声)
信久お兄ちゃん……そっちが好きなんだ……女の子みたいに鳴かされちゃうんだ…

ソニア:(小声)
ま、まあご夫婦ですし……それぞれの趣味ということで……
幸せなら、それでいいかと……

由美恵:
あのさメリー、あんまりそういうの口にしない方がいいよ……
旦那様の名誉が……
 
お姉さん:
梨乃ちゃん、梨緒ちゃん、今日はお仕事じゃなかったの? 来てくれて嬉しいよ!

梨緒:
お昼ご飯に寄りました。

梨乃:
後輩たちも一緒に連れてきたの。

美月:
お店のハンバーガー、嬉しいです。メイド学校ではこういう味、なかなか食べられませんでしたから。

優:
さっき通ったのが、私たちが通う事になる学園でしょ? 近いし、気に入ったらいつでも食べに来られるね。
それにこの値段…安い! ほんとに学生向け!

菜乃:
梨乃奥様の立場で、どんなお昼に連れて行かれるのかドキドキだったけど…
こういう学生らしいお店で、ちょっと安心しました…

美月:
こんなお食事も召し上がるなんて…ちょっと意外ね。

梨緒:
奥様は、贅沢な食事なんてほとんどしませんよ。このハンバーガーセットでも、むしろちゃんとした食事の部類です。
放っておけば、スーパーの特売で纏め買いした冷凍ピザだけを一週間食べ続けても平気な人ですから…。
付き合わされる専属侍従の身にもなってください。健康面は、まあ、あの世界なら大丈夫かもしれませんけど…。

美月:
えっ…? 特売の冷凍ピザだけ?

優:
しかも電子レンジでチンだけ…?

梨乃:
梨緒、文句あるの?
それより、みんな「カスタムバーガーセット」でいい? ドリンクは好きなのをお姉さんに頼んで。セットに含まれてるから。

優:
はい、わかりました!

メリー:
ビーフボウルが食べたいのですわ♪ メイド学校にいる間、せっかく日本に来たのに…ずっと本場の牛丼屋さんで食べてみたかったんですの。

來奈:
わかる〜。カナダにも似たような牛丼屋はあるけど、本場の味はやっぱりちがうよね。
アメリカ行った時は良牛でよく食べてたけど、日本のお店で食べるのはなんか特別感ある♪

蘭子:
高級中華とか夢見てた自分がバカだった……良牛とは……はあ……(溜息)

ソニア:
まあ、昼食がアンタの花恋ご主人様の軍用レーションとか、梨音お嬢様のコンビニの肉まんで済ますよりは、だいぶマシだと思うけどね。

由美恵:
本当に……こういうお食事をされるんですか、ご主人様。
昼食が軍用レーションとか、コンビニの肉まんって……。

ソニア:
夕食は、まかないのメイドカレーを「美味しい美味しい」って喜んで食べてたし、
朝食も、二日目からは本人の希望で「パンとチーズだけ」になってるよ。

由美恵:
……そう、なんですね……。

ソニア:
だから、覚悟しといたほうがいいよ。
逆に言えば、由美恵がうまく誘導すれば――もっと贅沢な食事にもなるかもね。

蘭子:
そうそう。由美恵が頑張れば、ご主人様もちょっとは贅沢してくれるかも?

由美恵:
そ、そんな……とんでもないっ!
わたし、そんな目的で近づいたわけじゃありません!

ソニア:
あー…そうか、ご主人様って、自分のためには贅沢しないけど、誰かのためならするんだよね。

蘭子
……うちのお嬢様も奥様方も、なんでこう…メイドより質素な食事してるんだろ。
誰の影響なんだろうね……ほんとに。

エステル:
国連から……?
現在危険域に達している軍拡競争に対する、緊急共同非難決議への参加要請……?
「非難決議」なんて、いったい何の意味があるのかしら。
わたくしも……ですが、人を大量に虐殺してるような連中が、そんなもので態度を改めるとは到底思えませんのに。
とはいえ……返答しないわけにもいきませんし……ああ、どうしたものかしら……。

マリアンヌ:
ご主人様っ! またそんなもので食事を済ませて…!パークス(レスフィーナのこと)ですか? 
昨晩も、ベッドに入ってすぐ抜け出したの知ってるんですよ?
ここ何日もまともに休めてないのに、せめて食事くらいはちゃんとしてくださいってお願いしてるでしょう!?

エステル:
ちゃんと摂ってますわよ? ほら、これ……カロリーはしっかりありますし。
あとでサプリメントも飲みますから、大丈夫ですわ。

マリアンヌ:
……それ、レスフィーナさんと全く同じ言い訳ですっ!!
もう…あの方も、いつもカロリーメイトで済ませてるからって、真似しないでください!

マリアンヌ:
わかりました…。ご主人様はもう、私の言うことなんて聞いてくれないんですね。
……私、泣きますよ?

エステル:
ま、待ってくださいまし!
今この瞬間、わたくし、心を入れ替えましたわ!
どうかお許しを――!

マリアンヌ:
……具体的には、ご主人様。今からどうされるんですか?

エステル:
ええっと……オーナーの方々の到着が予定より遅れそうですので、
今夜はリズさんのファミレスで、マリアンと綾愛さんとご一緒に、ちゃんとお食事をいただいて……
その後はお風呂に入りまして、皆さまが揃われるまでは、マリアンと自室で静かに過ごすことにいたします。
お約束いたしますわ!


マリアンヌ:
本当ですね? その約束、破ったら……私、ご主人様のこと……知りませんから。

エステル:
はいっ! 承知しておりますわ!

エステル:
(オーナー達が今夜中に集まりそうなら、悠里と紅葉さんに頼んで一時的に日本周辺の空路を混乱させて到着を明朝まで遅らせる事も検討しなけばなりませんわね)

ラケシス:
今日は……そっちのクラブが忙しいって聞いたから。
わざわざ迎えに来なくていいって言ったの。
向日葵様にまで迷惑かけたくなかった。

クロート:
うっ…

梨樹:
ラケシス。
クロトお姉さんは、たぶん向日葵様に言われて──
ソフィア様に「姉として」「クラブとして」きちんと挨拶してきなさいって、お願いされたんだと思いますよ。

クロートー:
そ、そうなの。
梨樹はほんとに、よくわかってる……。
本当なら、EHDENとして──ご主人様が直接お伺いするべきだけど……会議で来られないから、代わりにって……

ラケシス:
…うぅ。

SE:
ガチャ♪ ガチャ♪

こずえ:
どうぞ、お降りください。

クロート
びっくりした……ドア開けてもらうの、慣れてなくて……なんか、恥ずかしいね。

ノーラ:
クロト先輩──そして!
ラケシス総務部長っ! お待ちしておりましたぁ!

ラケシス:
ひぃっ……そ、総務部長って……(小声)
ごほんっ……うん、来たよ。

千沙:
お荷物、お持ちしますね。

ラケシス:
あっ、キミ、それは……ラケシスが……

ノーラ:
総務部長、ダメですっ!
今は新人研修中ですので!

ラケシス:
あっ……そっか……お願いする。
研修中……なるほど……
この子たちが、新人メイドなのね。

ノーラ:
では──改めまして。
ラケシス総務部長、梨樹さん。
エンパイアクラブ・シェルムーンへようこそ!
弊クラブは、おふたりを心より歓迎いたします!

ラケシス:
……よろしく。

梨樹:
……精一杯、務めさせていただきます。
どうか……よろしくお願いいたします。

クロートー:
ノーラメイド長。ふたりを、どうかよろしくお願いしますね。
……ふたりとも、がんばってね。

ノーラ:
クロト先輩──
あの、向日葵先輩と幸から伝言です。

「どうせそっちへ行くんでしょうから、着いたらすぐ戻るように」
「それとAURORA通信を開けなさい」
そして──
「こんな大変な時に、よくもまぁ逃げ出せたものね?」とのことです。

私は……ちゃんと伝えましたからね、先輩。

クロートー:
ひぃっ……は、はい……。

ラケシス:
……やっぱり、お昼食べてくるって言って抜け出したんだ。
梨樹、うちの姉は──こういう人。
覚えておいてね。

梨樹:
……はい。

クロートー:
向日葵様っ、すぐ戻りますっ!
ディオーネ……幸様もっ、いえっ! 決して逃げ出そうなんて……っ!

資料の件、はい!帰り次第すぐに揃えますので……!

ヘーラー……梨々衣様っ!?
えっ、そっちの資料……!? わ、わかりました、今すぐ戻って、すぐに……!

こずえ:
……(ふふっ、と苦笑)

梨樹:
……クロトお姉さん、がんばってください……

ノーラ:
千沙、おふたりを宿舎のお部屋へ案内してあげて。
その後、サロンにいらっしゃるソフィア副オーナーのところへ。

ラケシス:
……サロン?

千沙:
千沙、承知いたしましたっ!
総務部長、梨樹──さん?

梨樹:
……私は、まだ新人メイドですから。
同期として、お互い“さん付け”は無しにしませんか? 千沙。

千沙:
……うん、わかった。
梨樹、よろしくね!

それじゃあ──ご案内します!

千沙:
ここがおふたりのお部屋になります。
お手洗いとお風呂は共用ですが、勉強部屋とバルコニーがついてます。
お隣はノーラメイド長のお部屋です。サブオーナールームに隣接していて、ソフィア副オーナーと仁香さんが住んでます。

梨樹:
……ソフィアが、専属メイドを取ったんだよね。
会ってみたいな……

千沙:
このあと、すぐ会えますよ。
今サロンにいらっしゃいます、副オーナーとご一緒に。
それと、ラケシス総務部長の新しいメイド服が届いてますので、お支度ができたらサロンへ向かいましょう。

ラケシス:
……新しいメイド服、ね。
着替えるから、手伝って?

梨樹:
──はい。

ラケシス:
……変じゃない? なんか、こういうの……慣れてなくて。

梨樹:
ううん、すごく似合ってるよ。
ね、千沙もそう思うでしょ?

千沙:
はいっ! ラケシス部長、とっても可愛いです♪
ちゃんと、部長ってわかる雰囲気もあるし!

ラケシス:
……可愛いって……そんなの……。
(小声で)…でも、ありがとう。
…案内、お願いしてもいい?

千沙:
もちろんですっ。さあ、行きましょう♪

梨音に会釈をするメイド

梨音:
(見回ってみたけど……危険物の設置もできないように、事前に全部メイドが張り付いてる。もう、やることなんてないじゃない)

梨音:
(この会議場ブロック、入り口ゲートは一つに絞られてて、オーナーでさえ監視対象。控室には警備メイドが常駐。…まさに、完璧)

梨音:
(完璧なのは、いいんだけど──
梨音がやること、無いじゃない
お店のことは向日葵たち、スプロール関係は幸と梨々衣、新人研修は梨乃と梨緒。
梨音が動くまでもない

何かあったときの“抑止力”として待機してろ、って言われたけど……それって結局──
……梨音だけ、抜け者)

梨音:
(すみれ先輩について行きたかったな……まあ、そういうわけにもいかないけど
あの人は、戦ってる。“戦ってる”って感じがする
……わかってるよ?
“ここにいること”が最善で、確実で、梨音の“戦い”なんだってことくらい
ただ座ってるだけ。なにかが起きたら動く。それまで、透明な空気みたいにそこにいるだけ。

そんなの、他のメイドにすらできる。 梨音である必要なんて、どこにもない)

梨音:
(……寂しい。
すみれ先輩に対してのミーナみたいに、梨音にも“梨音のためだけの侍従メイド”……とか、取ってもいいのかな…。
でも……そんなの、梨音には何させたらいいかわかんないし。
一緒にいても……遊ぶの、下手だし。気を遣わせるだけ

──梨音が、つまんない人間だから)

SE:
パタッ!パタッ!パタッ!パタッ!(足音)

梨音:
カッ!(何かを察知してそっちを向く)

幼いメイド:
ひぃぎゃあ!

すぽ~ん! 盛大にすっ転んだ幼いメイドが持っていたプラステックバインダーが手からすっぽ抜けて飛ぶ!

梨音:
えっ?

ぐいっ! パシッ!

梨音が凄まじい速さで飛んできた幼いメイドを抱え込み、飛んだバインダーを掴む。

何が起きたか理解できない幼いメイド

梨音;
キミ、怪我は無い? 

幼いメイド:
ぁ……あの……はいっ……! だ、大丈夫です、どこも痛くないです……っ

梨音:
それは良かった。
でもね──急いでるからって、焦って走り回ると危ないよ?
自分が怪我するだけじゃなくて、他の人まで巻き込んじゃうかもしれない。

幼いメイド:
うん……っ しゅ、しゅいますしぇん……ごめんなさいっ!

梨緒:
はい。これ、お仕事で大事なものなんでしょ?

幼いメイド:
うん……。これをオーナーさんに届けるように言われて……戻らなきゃいけなかったんだけど……。
でも、迷子になっちゃって、時間もどんどん過ぎて……焦っちゃって、キョロキョロしながら走ってたら……。
──ごめんなさいっ、お姉ちゃん、怪我してない?!

梨音:
うん、大丈夫。全然、平気だよ。
……そっか、迷子になっちゃったんだね。ここ、ちょっと入り組んでるし。
で、その資料……ご主人様に言われて、オーナーさんに届けに行く途中だったの?

幼いメイド:
ご主人様……? ううん、いないの。
今はオーナーさんに、事務局からこの書類を取ってくるように言われて……その帰り道。
でも迷子になっちゃって、戻れなくて……

梨芽はね、お試しメイドなの。
……スーパーの試食品、みたいな……食べて、美味しかったら正式に買ってくれるって──そんな感じ?

梨音:
……試食して、美味しかったら「買う」? ほうぅ…
ちょっと、そのオーナー……名前、聞いてもいい?
──ほら、控室まで連れていかないといけないでしょ。

幼いメイド:
うんっ。今は、保坂オーナー──良二オーナーさんに“お試し”してもらってるの。

梨音:
……良二お兄ちゃん……?

梨音:
そうだ──名前、教えて。
私は梨音。果物の“梨”に、音楽の“音”で「りおん」って読むの。

梨芽:
梨芽です。果物の“梨”に、木の芽の“芽”で「りめ」って読みます。

梨音:
うん、梨芽ね。
じゃあ──今、お試しをしてるそのオーナーさんのところまで、一緒に行こうか。

梨芽:
うんっ! 梨音お姉ちゃん、よろしくお願いします!

梨音:
ふふ……(そのあとで──良二お兄ちゃんが無事でいられるとは限らないけど)
(こんな子を“試食して、美味しかったら買う”……? ──さて、どうしてやろうか)
 
ソフィア:
君にキラリ☆ 萌えキュン!
萌え バッキュン

純情メイドぶっころ主KISS

ラケシス:
なにこれ……ドン引きなんだけど……。

梨樹:
た、楽しそう……ですよね……?(目そらし)

千沙:
副オーナーが「メイドとして働く」って……こういうことだったんだ……

ソフィア:
永遠の夢に招待 もう返さない
愛をあげる Kill Kill You!

パリー・パリーヤ:
want you!

仁香:
ご主人様……可愛い……です……(ぽわぽわ♪)

美紗季:
あざとすぎて逆に尊い!これは絶対バズる!

ノーラ
さっすがソフィア! あざとさ全開だわ!

ソフィア:
恋のバトル炎上中!
乙女純情暴走中!
君のハートに今命中
萌え バッキュン★

マーニー:
ラケシス部長、お疲れさまで~す♪
梨樹、おつかれ〜!

ラケシス:
……ちょっとマーニー。
まさか私たちも、これ……やるとか言わないよね?

マーニー:
そのまさかです♪ 持ち回りで全員ステージって決まってますので!

梨樹:
……えっ……ほんとに……?

千沙:
やっぱり逃げられないパターンだった……

梨芽:
オーナーさんっ、梨芽、お使い終わりました。

良二:(頭を撫でながら)
梨芽。遅かったから心配してたんだよ。今ちょうど、探してもらおうかって話してたところだ。
戻ってきてくれて本当に助かったよ。

梨芽:
ごめんなさい…帰り道、迷子になっちゃって…でも、このお姉ちゃんが見つけてくれて、連れてきてくれたの!

良二:
お姉ちゃん…?

梨音:
梨芽から聞いたよ。梨芽って「お試しメイド」なんだってね…良二オーナー?

梨芽:
うん、梨芽はお試しメイドなの。

梨音:
なるほど…お試しメイドを「試食」して…美味しかったら買う…ってこと?

梨芽:
うんっ、それそれ〜♪

梨音:
このゲス野郎…さて、どう処理してやろうか。
どんな終了処分が似合うと思う? 良二お兄ちゃん…

良二:
梨音! 違う! そんな「試食」なんてあるわけないだろ!

梨芽:
えっ…? 梨芽のこと、食べないの?
やっぱりオーナーさんにとって、梨芽は美味しそうじゃなかったの…?
梨芽のこと、買ってくれないの…?

良二:
梨芽! そんなこと言っちゃダメだよ!

梨音:
ふふふふぅ……♪

ソフィー:
ほう……一部のオーナーの間で、そんな外道な仕組みがあるとはね。
保全機関としては、そういう鬼畜なオーナーどもは即時処分対象だな。
で──まずは、目の前のこの外道オーナー、どうしましょうか奥様?

久美:
……即、殺処分で

梨芽:
ねえ、「殺処分」って……なに?

良二:
ちょ、ちょっと待って! 久美ちゃん、ソフィーさん!
これ誤解だからっ! 梨芽も、そんな物騒なこと言わないの!

梨音:
……久美さんに、ソフィー本部長……?

梨芽:
あむっ♪ ん~っ、おいしっ♪

良二:
……ソフィーさんの立場からしたら、
ほんとに冗談じゃ済まされないんですけど。

ソフィー:
あははっ、悪い悪い。スマンスマン♪

梨芽:
ねえ、梨音お姉ちゃんはパフェ食べないの? 

梨音:
うん、梨音はこっちの方が好きなの。

久美:
ふふっ、梨音オーナーは肉まんが大好物なのよ。

梨芽:
へぇ~、そうなんだ!

梨音:
(過去にクロトの子の総師である黒澄玄徳が開発してた、全てのバイオニューロチップへ強制命令を出せる統合指揮電脳機能を持つ258体分のニューロチップ意識構造体の融合個体。アヴァロンと各国メイド部隊の急襲によりクロトの子が壊滅した時に回収されたものの意識が戻らなかった。 しかし今から三カ月前にアンナ博士を中心とする人工生命科学研究所の治療チームが目覚めさせる事に成功していたと。 人工的なグランドマスター権限をもつメイド。 それが橋本梨芽…この子。)



この時に萌香達が発見したプラント地下の融合装置の中心部のシンリンダー内に格納されていた固体。

久美:
はいお口拭けましたよ。

梨芽:
美味しかった!

久美:
なにか忘れてないかしら?

梨芽:
ご馳走さまぁ!

久美:
はい、お粗末さま♪

梨音:
(彼女には元になった個体、φ07001の記憶は存在せず基本人格と基本知能と知識。そしてこの三カ月の記憶しか持ってない。 現在は保全機関極東本部ソフィー・バルリエ本部長預かりで保坂良二のクラブにて外界適合試験を実施中…梨芽がいった「お試し」というのはこの試験の事か…)

梨芽:
ねえ梨音お姉ちゃんって……
「オーナー」ってことは、ご主人様になれる人?
あと、その……クラブも持ってるの?
久美お姉ちゃんのホワイティーガーデンみたいな……
メイドさんがたくさんいるお屋敷のご主人様?

久美:
そうよ。梨音ちゃんも立派なご主人様。
梨音ちゃんのクラブは「EHDEN」っていって、
複数のご主人様が一緒に運営してるクラブなの。
もちろん、たくさんのメイドさんが働いてるわ。

梨音:
うん。梨音のところには、向日葵や梨花、それにクロートー……
優しいメイドさんたちがたくさんいるよ。
この国際会議場も、実は梨音のお屋敷の一部なんだ。
クラブは、その隣の建物の上にあるの。

梨芽:
えっ……じゃあ、ここも梨音お姉ちゃんのお家の中なの?

梨音:
そうだよ。
大きな会議のときは、ここでみんなを迎えるんだ。

梨芽:
ふぅ~ん……そっかあ。なんかすごいね。

久美:
梨芽、もしかして……梨音ちゃんに興味あるの?

梨芽:
うん。
久美お姉ちゃんも、良二お兄ちゃんも優しいけど……
梨音お姉ちゃんも、すっごく優しいなって思って……

ソフィー:
ふふっ、なるほどね。
梨音に、なにか惹かれるものがあると。

梨芽:
「ひかれる」……って、どういう意味?

そうね……
梨芽は、梨音のこと――好き?

梨芽:
うん、好き!
梨音お姉ちゃんと一緒にいると、なんだか――
「ほっこり」するの。
安心できるっていうか……ほわ〜ってなる感じ!

ソフィー:
……なるほどね。

久美:
これはもう……良くん、見事にフラれたわね。

良二:
うぅ……それは……
梨音の方が歳も近いし、ご主人様としても頼りがいがあるし……ね……

ソフィア:
梨芽については……さっき読んでもらった資料の通りで、ちょっと特殊な子だ。
今のところ、マスターになれるのは――梨芽自身が「この人」って認めた相手だけ。

で、どうやら梨音を気に入ったみたいだし……
お願いしてみてもいいかな?「お試し」を。

梨芽:
うんっ!
梨芽を――試食してください! 梨音お姉ちゃん!

梨音:
……それ、試食されるのって私の方じゃないの?
つまり――ご主人様候補が私ってこと……よね?

SE:
カチカチカチカチッ!

來奈:
由美恵っ、今よ! 一気に決めちゃって!

由美恵:
はいっ、ご主人様〜っ! それっ、それっ♪

蘭子:
ひ、ひぃぃぃぃぃっ!? また落とされたぁぁ!

ソニア:
いやあああああっ!? 由美恵、それは反則ぅぅ!

由美恵:
ふふっ、ご主人様のために負けられませんからっ!

來奈:
由美恵、右上からくる! 一緒に挟み撃ちよっ!

來奈:
よしっ、來奈&由美恵ペアの勝ち~! イエーイ!

由美恵:
いぇ~い♪(來奈と軽く拳コツン)
TVゲームって初めてやりましたけど、すっごく楽しいです♪ さっきのカートのも面白かったですし!

來奈:
次、桃鉄に変えてあげようか?

ソニア:
初心者に…ボロ負けするとは…。

蘭子:
まだ……まだ終わらんよぉ……。

來奈:
ふふっ、それ完全にフラグだよ、蘭!

來奈:
みんな、ちょっと待って。AURORAに着信。
(端末を開きながら)
……はい、梨音先輩、お疲れさまです。えっと、蘭子は今、総会中ずっとソニアと一緒に、私の警護ということでいます。
――夕食? 予定は特にないですけど……
ソフィー保全機関極東本部長が、梨音先輩と私とで会食をしたいと? はい、構いません。
……中華料理? 由美恵、大丈夫?

由美恵:
変なものじゃなければ、なんでも食べられます。

來奈:
了解です。ソニアと蘭子も一緒に、ですね? 場所は二人が知ってる――行きつけの中華飯店と言えばわかる?

ソニア:
これは……!

蘭子:
ソフィー本部長オゴリの……高級中華!?

來奈:
開始予定時刻は……20時を少し過ぎてますね。
たしかに、集まり遅れてましたし……。

來奈:
明日の総会、ちゃんと開けそうなんでしょうか?
……午後から開始ってことは、朝は少しゆっくりできそうですね。

由美恵:
オーナー様方も、わざわざこの極東の日本まで、急ぎ足で向かってこられるんですもの。無理もありませんね。


來奈:
というわけで、悪いけど夕食には警護の都合もあるから、ソニアと蘭も一緒に来てね。

ソニア:
はいっ!

蘭子:
ご案内は私にお任せくださいっ!

來奈:
……なに? そんなに嬉しそうな顔して。

由美恵:
……(くすっ)

梨々衣:
会場で偶然の遭遇…ですか。それで梨芽さんが梨音に反応を?

ソフィー:
ああ。こちらが仕組んだ訳じゃない。ただの偶然だった。梨音もまったく事情を知らないまま会って…それで今、機密事項も含めて急いで事情を説明したところだ。

梨々衣:
橋本家としては、梨芽も正式な「橋本シスターズ」ですから……保護の責任はあります。

梨花:
……はぁ。まあ、うちであれば最適な保護環境は整ってるとは思いますし、梨音なら――うん、理想的な保護者であり、マスターであり、ご主人様にはなるとは思いますけどね。
問題は……

アリエル・ルシフェル:
はうぅぅぅぅ!

向日葵:
か、可愛いでしゅぅ……はぁはぁっ♪

梨芽:
ひぃぃぃぃぃぃぃ!(本気の悲鳴)

クロートー:
ちょっ、向日葵様! アリエルメイド長! 先代まで!
正気に戻ってください! それと――梨乃! ちょっとは止めるの手伝いなさいよ!


梨音:
向日葵! アリエルお姉ちゃん! ルシフェル姐まで揃ってどうするの!?
梨芽が怯えてるでしょ!

「汝、サタンよ、我が前より退け」――新約聖書より(マタイ16章23節)
……って、わたし神父じゃなくアテーナだけどぉ!

梨音:
梨乃、梨緒。ここは私とクロトでどうにかする。
今のうちに梨芽を連れて、私の私室まで退避して。

梨乃:
了解、お姉さま。梨芽、立てる?

梨芽:
……はい……た、立てます……

梨緒:
……ダメだこりゃ。

悠名:
特製カツレツ。ライスのセットで。

梨樹:
メイドハンバーグを…パンのセットで…。
あの…ご注文、これで…合ってます…よね? えっと…お揃い…で♪

梨樹:
あ、あのっ……追加で……わたしと悠名ちゃんのチェキサービス、ですか?
一枚ずつ……?
(小声で)……悠名、チェキってなに……?

悠名:
二人で撮ったチェキを、お客様おふたりに一枚ずつお渡しするってことですね。
すぐ撮影メイドを呼びます。少々お待ちくださいませ。
ミーサ、チェキサービスお願い!

ミーサ:
お客様ぁ、ちょっと顔が真っ赤ですよ? ビールのせいですかぁ?(笑)
はい、笑って〜! こら梨樹、もっと可愛く〜! 自然にね!

梨樹:
ひ、ひぃぃ……っ!

ミーサ:
あらっ、「初々しいのがいい」って? お客様、やさしいですね〜♪

悠名:
チェキにメッセージ書いてくるので、それまでゆっくりお食事をお楽しみください。

梨樹:
えぇ…梨樹ちゃんが…可愛い推しに……ありがとうございますぅ……

ミーサ:
初日から推し宣言きました〜! やったね、梨樹♪

悠名:
オレは…昨晩から「悠名ちゃん推し」って…ありがとう! がんばる!

ミーサ:
あっ、昨日も来てたんですね! なるほど〜、悠名目当てで!
……えっ? ミーサちゃんも可愛いって? ありがとうございますっ! 今日からなので、がんばりますっ!

ラケシス:
あのお客様、さりげなくチェキ撮るときに梨樹の腰に、手を回してたよ。

咲夜:
鼻の下、伸びてたし…

シンディー:
ラケシス部長、咲夜マネージャー! そんなこと言ってないで、6番テーブル片付けてきてくださいっ!

梨音:
どう? 食べられそう?

梨芽:
タレ…つけなければ、食べられる。

梨音:
あー、分かる。北京ダックのタレって、ちょっと大人の味だもんね。

由美恵:
EHDENの梨音オーナーって…すごく母性愛にあふれた方なんですね……。

ソニア:
おい、蘭……今の梨音オーナー、完全にエスエル議長とか、すみれ隊長のクラブの祥子メイド秘書とか、なみの“ちょろいお姉さん”系のオーラ出してるけど?

蘭子:
店長…母性欲で、完全に目がイッちゃってる…

來奈:
あの……梨音先輩、さっきから雰囲気がまるで違うんだけど……どうしたの?

ソフィー:
命の糸って、私はあると思うよ。
でもね、その糸って時々ほつれて、切れることもある。
でもまた、それは何かに繋がっていく。
──中島みゆき。

ソフィー:
いやいやいや、ソフィーお姉ちゃん、もう意味が全然わからないから!

(小声で由美恵に)この人が、保全機関極東本部長のソフィー・バルリエお姉ちゃん。
私や咲夜、ソフィア、悠名が公私ともにお世話になってるお姉ちゃんで、ソニアや蘭の上司さん。
本業は歴史をベースにしたフィクション作家さんでもあって、その界隈では結構有名なんだよ。

由美恵:
はじめまして。どうぞよろしくお願いします。

ソフィア:
うん、由美恵くん。來奈くんの専属侍従メイドとして、ぜひ一番近くで支えてあげてほしい。
困ったことがあったら、何でも言って。すぐにでも駆けつけるから。

由美恵:
はい……ありがとうございます。
來奈ご主人様のこと、精一杯お支えするつもりです。

來奈:(AURORA通信ソフィア)
ソフィア、そっちは本当に大丈夫そう? ……ううん、心配ってほどじゃないけど、なんかさ、私がいなくても全部上手くいってるって聞くと……オーナーとしてちょっと複雑というか……。
あ、でも外とのやり取りは私の担当だし、例の大量受注の件も、臨時総会でオーナーたちの協力が得られないと進まないんだもんね。そこは、私の役割。……うん。わかってる。

新人の子たちも、がんばってくれてるんだ?
へぇ……悠名とミーサが中心になって動いて、こずえと千沙がうまくフォローしてるって……ノーラが感心してたってことは、ほんとにしっかりやれてるんだね。なるほど……。

由美恵:
ご主人様、お風呂のご準備が整いました。

來奈:(軽く手をあげる)
うん、ありがと。明日の朝、起きたら連絡するね。……まあ、ちょっとゆっくりになるかもだけど……由美恵がいるから寝坊はしないって信じてる。
じゃあ、また明日ね。はいはい~♪

由美恵:
わ…すごい……これ、本当にお風呂なんですか?…景色まで……。

來奈:
ふふ、ね。ちょっと贅沢しすぎかもね。

由美恵:
ご、ご主人様…その…あの…お隣、座っても…いいでしょうか…?

來奈:
うん、いいよ。別に気にしないし。

由美恵:
そ、それでは…失礼します…。

由美恵:
うぅ……

來奈:
どうしたの? そんなに恥ずかしがって。昨日の夜も一緒にお風呂入ったじゃない。

由美恵:
で、でも……昨日は他の方も一緒でしたし……こんなに近くには……

來奈:
ふふ、私のこと……ちゃんと意識してくれてるんだね♪

(そっと肩に手を回して、優しく引き寄せる)

來奈:
……ねぇ、由美恵。あなたは、私の専属侍従メイドだよね?

由美恵:
ひぃぃっ! あのご主人様ぁ?! あの…その…
(腕にご主人様の乳首がっ…それに胸が押し付けられて‥柔らかい‥‥ご主人様の指がはい回って…)

來奈:
私に、すべてを捧げるって……そう言ってくれたよね?
だから、私があなたに触れることも、あなたのそばにいることも……全部、当然のことだと思ってる。

由美恵:
……はい。もちろん……です。でも……その……まだ少しだけ、心の準備が……。

來奈:
……心の準備、ね。ふふ、大丈夫。

來奈:
じゃあ、由美恵の心がちゃんと整うように……私が、手伝ってあげる。 Chu♪……うぅ…

由美恵:
~~っっ……!!(顔真っ赤)

由美恵:
ご、ご主人様ぁ……! それは……反則です……っ!

來奈:
どう? もう、準備できたかしら?

由美恵:
……はぁ、はぁ……はい、ご主人様……

來奈:
続きは、髪を乾かしてから…ベッドの中でね。 さあ出ようか。

由美恵:
はい…ご主人様…髪を御乾かしいたします…

梨乃:
梨芽は「年少組」なんだから、一緒に梨乃と梨緒のお部屋で寝る!
ちょうど三人三人でバランスいいでしょ?

向日葵:
ちょっ…ちょっと待ってくださいっ!
「年少組」って何ですか!? 梨芽は、みんなの妹って決まったはずですよね!?

梨乃:
いくら向日葵様でも、こればっかりは譲れない!
その代わりに、梨音お姉さまは向日葵様たちにあげるから、好きにしていいよ。

向日葵:
あのっ!…それ全然釣り合ってませんからねっ!

梨音:
梨乃まで…はぁ…

クロートー:
まあ。梨乃としては、自分より年下の妹ができたような気分なんでしょう。
嬉しい気持ちはわかるけど、ちょっと落ち着きましょうね?

梨緒:
そのくまのぬいぐるみ…たしか……

梨芽:
うん、梨音お姉ちゃんの机にいたくまさんのひとり。
梨音お姉ちゃんが小さいころ、お兄ちゃんにもらったくまで、「白ちゃん」って名前なんだって。
一緒に寝てもいいよって貸してくれたの。……すっごく肌触りがいいの。

梨乃:
ではお姉さま方、梨乃たちはこれにて就寝いたします!

おやすみなさいませ!

來奈:
私に見せてくれる為に買ったんでしょ? 手で隠さないでしっかり見せて。

由美恵:
ぅぅ…

由美恵:
はぁ…はぁ…こ…これで‥よろしい…ですか…ご主人…さまぁ…

來奈:
うん。 可愛いし…綺麗よ…由美恵。 さあこっちに来なさい。

由美恵:
は…はい…。

來奈:
脱がして。

由美恵:
…はい。 うわ…はぁっ…はぁ…ご主人様ぁ…綺麗でしゅ…甘い匂いがします…

來奈:
そんなに眼ギラギラさしちゃって。 一生懸命に私に仕えてくれるメイドとして…ご褒美が欲しい?

由美恵:
…頂けるなら‥‥ご褒美を…下さい…

來奈:
私のカラダ…そんなに…欲しい?

由美恵:
はい・・・欲しいです…ご主人様…

うぅ…ちゅ…あん…

由美恵:
幸せ…です…頭溶けてます…ご主人様ぁ…ご主人さまぁ…由美恵…幸せ・・・です‥

來奈:
ちゅ…由美恵は最初はどうしたい? それとも…私にされたい? 

由美恵:
はい…ご奉仕…したい…ちゅふっ♪・・・でしゅ…

來奈:
あんっ! ちょっと…由美恵…あぁぁん! 待ってぇ! 激しすぎだよ…あんっ!
そんなに、吸わないでぇ‥‥あぁぁあぁあん!

由美恵:
あぁぁ…ぁぁ…ごしゅじんさまぁ~♪ ちゅぅぱぁ~♪ おいしいでしゅ♪
れろれろぉ~♪

來奈:
だめぇぇぇ! イっっちゃう…から! ダメぇ‥‥ああぁああん!

由美恵:
ちゅぱぁっ! レロレロぉ…ちゅうぅぅうぅ! おいちいぃ♪

由美恵:
うぅぅぅぅっ!

來奈:
あんっ!あんっ!あんっ!あぁxxxxxxxxxx! あxxxxxxx! あんぐっ!

由美恵:
あれっ? ご主人様?

來奈:
ごめん・・・イちゃった…はぁ‥‥ふぅ…

由美恵:
えっ? ご奉仕続けて良いですか?

來奈:
由美恵さん…・少しまって‥休ませて…今度は私が…由美恵さん事を…

由美恵:
もうちょっとご奉仕させて下さい…お願いします…

來奈:
そうですか…由美恵さん「が」私「に」したいと…受入れますから…なら少し休ませて下さい…

由美恵:
仕方ないですね…

來奈:
ありがとうございます‥‥たしかに・・・スチッチ入ると激しい・・・普段ガマンしてるんだろうな…はう…

來奈:
あっ・・・はっ! 少し意識飛んでた?! それでナニこれ?

由美恵:
ご主人様…もう大丈夫ですか? コレは昼間折角、「主従の契り」をして頂く為に買ったので‥契りを頂こうかと思いまして…

來奈:
あのソレはご主人様の私が、主導権をに行ってやるもの…

由美恵:
ゴメンナサイ。ご主人様…

來奈:
えっ?

由美恵:
もう…由美恵…待てなせん♪ ご主人様の「契り」を頂きましゅ♪

來奈:
だから、待ってぇ!

ズボッ!

由美恵:
あんっ♪

來奈:
うわぁああああああああああああ!

由美恵:
ご主人様ぁ‥ご主人様ぁ‥ご主人様ぁ‥由美恵の全部をあげます! 受け取って下ささい! 由美恵のご主人様ぁ! 愛してますすぅ! あぁああ!(号泣) わぁあぁあん! あんっ! あぁんっ!!

來奈:
ああああああああああああ! xxxxxxxxxxxxxxxx! あぁんんっ! こ…コワレル…ワタシ‥コワレチャウ…

由美恵:
あんっ! イクっ! xxxxxxxxxx! あんっ! ふぅ…

來奈:
xxxxxxxxxxxx!XXXXXXXXXX! カっ! xxxxxxxxxxxxxあうんっ!

由美恵:
・・・あっ! ご主人様ぁ! だ…大丈夫…じゃないですよね・・・あぁ‥

來奈:
ぅぅ…もう…無理…(呻き)

由美恵:
ひぃぃぃぃいぃ! 私は何て事をしてしまったの! とにかく! 落ち着かなくちゃ! タオルおもちします! あと水分!

來奈:
お…おね・・・がい…動けない…由美恵の・・・主(あるじ)への愛…激しくて…重すぎる…カラダがモタナイ…手加減して…
 
來奈:
すぴぃ~♪

由美恵:
ぅぅ……ん……

由美恵:
(7時20分……今日は遅くてもよかったのに……でも……)

來奈:
ぐぅ〜……すぅ〜……♪

由美恵:
(早起きは三文の徳なんてもんじゃない…これは三千両の価値!
ほんとに役得すぎる…私のご主人様ぁ…大好きです…)

來奈:
うぅ…ぐぅ……

由美恵:
(起こさないようにしないと…寝顔、ほんと可愛い…
蘭さんの言ってた通りだわ…ご主人様を独り占めできるなんて…
しかも私の胸の中で…こんなに幸せでいいのかしら…♪)

由美恵:
(この気持ち…誰かに伝えたくてたまらないけど、
同じご主人様を仰ぐ仲間にはさすがに申し訳ないし…
でも、ソフィア様の専属侍従になった仁香なら…きっとわかってくれるかも。
それに、昨晩連絡なかったし、もう起きてる頃だよね…ちょっと気になるし…)

仁香:(AURORA通信 仁香⇔ノーラ)
(やっぱり…ご主人様、かなりお疲れかと。
昨日は新人メイドたちを盛り上げようと、ずっと頑張ってはしゃいでましたし…。
その前は、最前線での治療活動からそのままクラブの運営ですから、
まともに休まれてないと思います。私との移動も、エジプトから直行でしたしね…)

(はい、昨日、美紗季さんとラケシス部長とで必要な決定は済ませたので、新人研修の間はこの体制でなんとか回せるかと)

(理想は…一日か二日でも、ご主人様にしっかり休んでもらうことなんですが――)

(それにしても…)

仁香:
(きっと、「休んでください」なんて言っても素直には聞いてくれないですよね…。
責任感の塊みたいな方ですし、それに「できるかじゃない、やるんだ」って本気で言って、そのままやっちゃうタイプですから…はい、本当にその通りだと思います。
でも…私もソフィア様のメイドとして、少しくらいは頑張らないとですね。
だから…何かうまく理由をつけて、クラブから少し離れて、1日か2日でもゆっくりできる場所へ――

…ノーラメイド長、ちょっと待ってください。AURORA通信に新しいアクセスが…)

仁香:
(由美恵…? 來奈様のことで何かあったのかしら…。
ノーラメイド長、通信取ってもよろしいですか?
もし緊急なら、このままこちらのルームに呼んでも問題ないと…はい、了解です。)

仁香:(AURORA通信 仁香⇔由美恵)
……はぁっ?! 由美恵元特務大尉!?
こっちはノーラメイド長と一緒に、疲労MAXでも休もうとしない問題ご主人様をどう騙してでも休ませるかって作戦立ててる最中なんですけど!?
なんでこの早朝から、來奈様とのノロケ話を聞かされなきゃいけないのよ!?
いくら戦友で、階級上だったとはいえ…っ、小官でも怒るわよ!?
いい加減にして!!

ビクンっとソフィアが目を覚ます。

ソフィア:
ひぃっ……! 問題ご主人様で、申し訳ございませんっ!

仁香:
ご…ご主人様、おはようございます。

ソフィア:
おはよう。……あのさ、もしかして私のことで、ノーラと相談してた?

仁香:
えっと…はい、まあ…その、そうです…。

ソフィア:
それで、由美恵にとばっちりがいったってわけ?

仁香:
……寝起きなのに、状況の断片から分析するとか……さすがですね…。

ソフィア:
今ね、由美恵も來奈もラブラブだから、許してあげて?
そのかわり、ちゃんと仁香とノーラの言うこと聞くからさ。

仁香:
……はい。そうします…。
……もう、ほんとに……そういうところが……ご主人様は……うぐっ……。
SE:
ガチャッ、バタン、カチャカチャ……!(車両のドアが一斉に開く)

美紗季:
カチューシャ主計小隊副長と聖理愛班長に敬礼!

ノーラ:
超お待ちしておりました! これで勝つるぅ!

聖理愛:
すみれと真理愛の置き土産に手こずって、ちょっと遅れたわ。
でも…ひよっこたちだけで壊滅にならず防げたみたいね。
さ、さっさと片付けましょ。

カチューシャ:
聖理愛──我が部隊のやり方は、“有象無象、区別なく薙ぎ倒す”。
手は抜くなよ。いつも通り、徹底的にいくぞ。

まこ・沙良:
YES, ma’am!(イエス・マム)

仁香:
あの…この方々は?

美紗季:
すみれ隊長のクラブ「カリブルヌス」と、
ロンゴミアド特別機動部隊を支える主計隊の精鋭と、サロン実務の要の皆さんです!

カリブルヌスのサロンでは、オーナーのすみれ隊長と副オーナーの真理愛マネージャーは、
『居るだけで邪魔』との理由で、立ち入り禁止なんですよ。

実際のクラブ運営は、こちらの皆さんとエスコートメイドの方々が全て担ってます。
……まあ、組織ってのは、予算と体制が整えば、オーナーは要らないんですよ。
この方々はその“完璧な証明”なんです!

ノーラ:
つまり──普段の実務において、オーナーや副オーナーは
「飾りにもならない」ってことです。

クラブの性能は100パーセントでます。 偉い人には分らないんです!

咲夜:
……オーナーも副オーナーも、邪魔だから立ち入り禁止……

ソフィア:
……飾りにもならない……
……無価値………

美紗季:
昨日、ソフィアオーナーちゃんが頑張ってくれたおかげで──
予算の確定も、当面の運営方針も、無事に執行段階に入りました!

というわけで…副オーナーちゃんは、しばらく安心してお払い箱で!

ソフィア:
……お、お払い箱……

まみ:
エスコメイド部隊も一緒に来てるから、
任された運営計画、全部こちらで処理しちゃいますね。

それとソフィアさんの車、届いていたので持ってきたよ。
ということで、どこか適当に出かけててください。

そうそう──二、三日くらい戻ってこなくて大丈夫です!

仁香:
……に、二、三日……
ご、ご主人様が……邪魔扱い……!?

カチューシャ:
こんな可愛い専属侍従メイドがいるのに、
お泊まりデートすらしてないなんて──ありえないわ!

そうだ、東京でも行ってきたら?
オーナー用リザーブのお部屋もあるし、ちょうどいいじゃない。

仁香さん、中東ばっかりだったんでしょ?
日本は初めてでしょ? だったら──

ご主人様と二人きりの、お・と・ま・り・デート♡

仁香:
い、いや…っ、その、あの…っ…っ!

ソフィア:
あの…それ、冗談…ですよね?
副オーナーを放り出すとか、本気じゃ──

まみ:
……ソフィアちゃん、うちのすみれ隊長のこと、よく知ってるでしょ?
「運営の邪魔だからクラブ立ち入り禁止」って、月イチで食らってるわよ。

オーナーなんて、「必要な時にいればいい存在」なの。
……それ知ってて、まだ「冗談」だと思う?

ソフィア:
すみれ隊長……
ご主人様って……そういう扱いされる存在なの……?
……ご主人様は……元気で留守がいい……。

美紗季:
ということで──決定!

ソフィアご主人様と仁香の東京デート、大義名分が整いました!

仁香、旅行の準備よろしく。
荷物は軽めでいいよ、現地で調達もできるし♪

ソフィア:
……おい、仁香……ノーラ……

仁香:
ソ、ソフィアメイド長……
えっと……本来は、白山市のEHDENに視察へ行く予定…という流れでは?……

ノーラ:
てへっ♪

ソフィア:
……咲夜。

咲夜:
フッ……
楽しんできたまえよ、ソフィア「お嬢様」。

ソフィア:
このイジワルメイドモドキーーーーーッ!!!

仁香:
ご主人様、ありがとうございます。
あの……さっきまみさんがおっしゃってましたけど、このクルマ、ご主人様のなんですよね?
……すごい目立つというか、えっと……やたらゴツいですよね。

正直に言うと、歩兵機動車にしか見えないんですけど……。

ソフィ:
H1は確かに米軍の多目的四駆が元になってるけど、これはその後のモデル。
……まあ、言いたいことは、わかるわ。

 ガシャン!(ソフィアが運転席側に乗り込む)

ソフィ:
……私が乗ったらおかしいって、思ったでしょ?

仁香:
い、いえっ! ぜんぜん似合ってますっ……!
ただ……その、ちょっと想像してたのと違うというか……

(小声で)
あっちで乗ってた機動車より、全然揺れないし……
サスペンション、すごく良いんですね。意外と快適です……

ソフィア:
……民生車だからね。

ソフィア:
……私ね、大学院にいた頃、よく子ども扱いされてたの。
どれだけ成果出しても、背が小さいだけで「お嬢ちゃん」って。

だから、最初に買った車がこれだったの。
「これに乗ってたら、誰にもナメられない」って……そう思ったから。

仁香:
……カッコいいです。
すっごく……ソフィアご主人様らしいって、思いました。

ソフィア:
……ふふっ、ありがと。

仁香:
うぅ〜ん……
(でもこれ……ご主人様、足ちゃんと届くのかな……急ブレーキとか……ちょっと心配かも)

ソフィア:
……ふっ、どうせペダルに足届くのかって思ってるでしょ?

仁香:
えっ!? い、いえっ、そんなこと──!

ソフィア
大丈夫。ちゃんと特注仕様で届くようにしてあるから。

仁香:
さすがです、ご主人様。ぬかりないですね。

ソフィア:
……ぬかりがないって言われるの、なんか腹立つ……。
 
ルゥナ:
わかりました、その1000機分。ルゥナが払います。即金で
こういう時って、やっぱり米ドル? それとも…カナダドルのほうがいいかな?

エステル:
ルゥナさん…即金、ですの?

來奈:
あの…今、受注が入ってる守人の予備パーツ・特殊仕様・運搬・訓練パックまで全部含めて……総額、米ドル換算で65億ドルを即金ってこと…

由美恵:
ろ、65億ドル…? えっと、日本円で…いくらですか?

エステル:
だいたい9,750億円ほどですわね。

由美恵:
1000機でもろもろ込みって考えると…まあ安いんですけど……
でも、これって東欧の小国の国家予算規模……ですよね?
それを即金って……
え、もしかして現金? ドル札が山積みで届く感じなんですか…?

エステル:
さすがに、その規模のお札は存在しませんわ…。

來奈:
米ドルで構いませんが……それ以前に、この規模の金銭仲介契約の決済とか……いえ、その前に株主の了承が……

ルゥナ:
あ、それは大丈夫です。ルゥナ個人が出すので。

來奈:
……えっ? ルゥナさん、個人で……?

由美恵:
(言葉が出ない)

エステル:
來奈さん、この方は……個人で出せるのですわ。本当に、恐ろしいことに……

ルゥナ:
アリエルさん、ルゥナ出せるよね?
この前、定期の説明受けたときに、すぐ動かせるお金がそれの何倍もあるって言ってたの覚えてるから。

アリエル:
はい。すべて即時運用可能な余剰現金資産の範囲内で対応可能です。
では、そのうえで具体的な契約形態とスキームについてですが――

ルゥナ:
そういうのは、アリエルお姉さんに任せるから……

アリエル:
ご・主・人・様。せめて聞く姿勢だけでも見せてくださいませ。

ルゥナ:
だって、どうせ聞いてもルゥナわかんないし。任せたからね、よろしく〜。

アリエル:
……もう、本当に……まあ、いいです。

アリエル:
まずは基本スキームを確認いたしますね。
当事者1として、各国家の軍部は購入の意思と契約希望を示しますが、支払いは予算編成・議会承認・政令手続きなどで時間を要します。

当事者2として、ルゥナ・デルポール様(個人)が、
→ 月空アームドインダストリーに対して即金で一括支払いを行います。
→ 同時に国家との契約書を「売掛債権(受取債権)」として保持します。

ルゥナ:
あむっ♪ おいし〜い。

アリエル:
当事者3として、月空アームドインダストリー(來奈様)は
→ 受け取った即金を使って、1000機+予備パーツの即時生産・納品を開始。
→ 後日、国家からルゥナ様へ売掛金が一括または分割で支払われます。

ルゥナ様は、「仮決済代行人(Temporary Guarantor)」もしくは「前払融資者(Advance Financer)」という位置づけとなります。

各国家とルゥナ様の間には、「債権譲渡を前提とした仮債務立替契約」を締結することになります。

來奈様の立場から見ると、「実質的な売掛先は国家ですが、支払いはルゥナ様から即金で受け取る」形になります。

エステル:
つまり、各国は議会の承認を待たずして即時配備が可能。
月空アームドインダストリー側も、資金面のリスクをまったく負わずに済むということですわね。

ルゥナさんは「Private Funding Guarantee Agreement」、すなわち「私的資金保証契約」を結ぶということになりますわ。

由美恵:
あの…ご主人様、私…会話の内容がよく分からなくて……。解説してもらえますか?

來奈:
超ざっくり言うとね。
ルゥナさんがデルポール家の個人資産を使って、完全即金の「私的契約」を組んだってこと。
本来は各国が分割で払うはずだったお金を、全部ルゥナさんが「先に」出してる。
で、その分を国家から後で回収する──いわば「前払いバイヤー」みたいな構図。

企業としては即金で資金が入るから、私たちはすぐに全力で生産・輸送・納品に入れる。
そして各政府は、納品さえされれば議会の承認を待たずに即時配備ができる……
つまりね──これはもう、国家予算を超えた規模の「個人取引」ってこと。

由美恵:
はぁ……(呆然)

來奈:
でも……普通、こういうのって企業でも個人でも利益を出すことが前提なんだけど……
いや、違う。もしかして……目的が……

由美恵:
ご、ご主人様……?

アリエル:
そうなります。ですので、エステル議長には…

エスエル:
わたくしの出番ですわね。国家が万が一、支払い不能となった際のリスクヘッジ──保険ですわね。

ルゥナ:
シュークリーム、美味しかったぁ♪

アリエル:
……うっ。 ごほん。 さすがに話が早くて助かります。

エステル:
ロイズの再保険を、我がフォーシスターズが受けましょう。
G7諸国が相手で、支払いも各国分散されておりますもの。
リスクは相対的に低く、保険料率も抑えられますわ。──お引き受けいたします。

アリエル:
ありがとうございます、議長。

來奈:
あの…一部の、ちょっと我儘な国が「リースにしてくれ」って言ってるんですが…

エステル:
もちろんですわ。今アリエルさんと確認した契約は、最初から「リース契約を前提とした準備契約」でございます。

來奈:
やっぱり…最初から、そういう方向で組まれてたんですね…

由美恵:
リースって…アーマーメイドを? あれ戦術兵器ですよね? 場合によっては大量破壊兵器になりえるのに…!

エステル:
だからこそ、なのですわ。

ルゥナ:
由美恵ちゃん、ルゥナが考えたのは…新しい安全保障の形かな? そのためのこれは布石? っていうの? 未来を買った取引! ちょっとカッコつけちゃった♪

アリエル:
來奈さん、今見積もりにあった金額の合計を、そちらの指定口座に全額送金いたしました。ご確認をお願いしますわ。
 
由美恵:
新しい安全保障の形……?
それってどういう意味なんですか、ご主人様。

來奈:
えぇ〜? なんのことかな〜?
私はしがない一介の武器商人ですよ? 意味わかんな〜い……

アリエルさん、会社口座の送金確認、完了しました〜

エステル:
ルゥナさん、良かったらわたくしの分のシュークリームもお食べになりませんか?

ルゥナ:
良いんですか? いただきます!
アリエルさん、由美恵ちゃんにあの資料を見せてあげて♪

アリエル:
シュークリーム一個で買収されましたわね。
由美恵さんのAURORAへ秘匿フラグを入れて転送いたしましたわ。御覧くださいませ。

ルゥナ:
由美恵ちゃん、それ見て。これ、守人の配備モデルに関する実地資料なんだけど……
わたしたちが作ってるのって、実は兵器じゃなくて――国家ごとの安全保障端末なのよね

由美恵(目をぱちぱちさせながら)
えっ……!? この基本フレーム価格……本当に、こんな価格なんですか?……?

ルゥナ:
あむあむ♪ うぅ~ん♪

アリエル:
ええ、正真正銘。単体フレーム価格、9,450,000円(注)。為替レート次第ではさらに圧縮可能ですわ。


注:参考 ユニット(運用初年度などの価格ではなくあくまで本体フレーム価格)

F-35 基本機体価格(エンジン込み)  1億2,000万ドル    約130億円
AH-64(アパッチ)                     2,000万ドル       約22億円
M1A(M1 Abrams 戦車)                 800万ドル         約8.8億円

來奈:
なーんと! 1,000万円を切った本体価格!
「設計」・「製造」・「調整」・「検品」までぜんぶやった私! えらいっ!
社長、超がんばりました〜! 由美恵、「社長スゴ~イ」って言って!

由美恵:
何ですかそれ?

エステル:
日本の深夜通販番組でしょうか……
次は「今なら限定で訓練装置付き!」とか言い出すのでは?

來奈:
議長もっともっとすごいのが! さ・ら・に!
当社なら、運用ユニット込みの年間費用!
武装、整備、AIサポート全部込み込々で……な~んと F35の半分以下でご提供いたします!

由美恵:(超戸惑いながら)
社長……これ・・・本当に…この価格で、運用できちゃうんですか……?

來奈:
はい! しかも、「高性能なのにスーパーカブ」思想で作ったの。
いろんな国で運用できるようにね!
いろいろなパーツを組み替えが可能!
フレームはブロック構造なのでニコイチ、サンコイチでも最悪動かす事が可能です!

エステル:
いえ、正確には……“軽バンで時速250キロ出せる化け物車”といったところでしょうか

來奈:
いや、ほめて!? それ……ほめ言葉のつもりで言って……?
設計者のガラスのハートが割れそう……っ

由美恵:
エステル様から「軽バン」って単語が出る方が衝撃なんですけど……
それ、ほんとに化け物車なんですか?

エステル:
わたくしの友人には、なぜかそういった類のものが好きな者どもが群れておりまして。
おかげで自然と詳しくなったのですわ

由美恵:
そ、そうなんですね……

ルゥナ:
つまりね、守人って「高性能スマホ」みたいなものなの
本体は安くて、性能もすごいけど――
そのままじゃ、何もできないの
キャリア契約がないと、動かない構造ってわけ!

由美恵:
……じゃあ、各国との「運用契約」が……キャリア契約ってこと?

ルゥナ:
そうそうっ! 国家ごとの運用契約が、キャリア契約ってこと!
使用制限・整備・訓練・情報解析……ぜ〜んぶセット!
でもね、簡単に乗り換えできないの。縛りがあるから

由美恵:
まさに……兵器の依存構造…

アリエル:
ええ。守人を導入した国家の防衛システムは、徐々に「守人仕様」へと最適化されていきます。
つまり、その国はもう「守人ネットワーク」から抜け出せなくなるのですわ

ルゥナ:
そして、これが一番大事なとこ!
エンパイアクラブ自体は、直接のキャリアじゃないの。
どっちかっていうと……いろんな国をとりまとめる「調整本部」みたいな存在かな!

由美恵:
……MVNOですね。
中身は同じ通信網でも、別会社が違う契約で販売してる

エステル:
……ふむ。なるほど。
來奈さんが由美恵さんを選ばれたのは、慧眼でしたわね。
本当に良いメイドをお持ちになりました、來奈オーナー

來奈:
はい。由美恵は……わたしには、もったいないくらいの専属侍従メイドです

由美恵:
……えっ?

アリエル:
ええ、まさにその通りですわ、由美恵さん。

今ある既存兵器は、例えるなら「ガラケー」。
通信は個別に完結していて、ネットワークとの連携はごく限定的。

一方、守人は「最新型のスマートフォン」。
常に中枢ネットワークと接続され、アップデートによって自動的に最適化されていく仕組みです。

そして、エンパイアクラブの役割は「MVNO」──
つまり、大手通信網を借りて、自社ブランドでサービスを展開する会社のようなもの。

通信の中身は共通でも、見た目や契約内容は提供者ごとに変わる。
守人も同じく、各国ごとに仕様が違っても、すべて同じ“守人ネット”に繋がっているのですわ。


來奈:
……まって……じゃあ、守人って……
スマホどころか……「SIMフリー端末」ってことなの……?

(ハッとして、自分で結論に辿り着き)

あっ……しかも……「格安」……スマホ……

……私、自分の最高傑作に「格安」ってラベル……
貼っちゃったんだ……
これ、ほとんど自傷行為だよね……?

由美恵
ご主人様……でも、それこそが本当に「世界を救う設計」なんじゃないですか?

予算が限られている国でも、命を守る力を持てる。
「必要な人に、確実に届く」ように設計されたってことですよね?

だったら――それは「格安」でも、「命のスマホ」です。

來奈:
やだもう……由美恵ちゃん……
やさしく言うの、やめて……
それが一番……刺さるの……

SE:
ガシャン! 机につっぷす來奈

由美恵:
ご、ご主人様ぁっ!

エステル:
今、見事にトドメを刺しましたわね……

アリエル:
やはり最後は忠臣による介錯──
専属侍従メイドの務め、まさに日本の文化ですわ!
 
仁香:
海鮮料理?

ソフィア:
ジャパニーズシーフードレストランだね♪

仁香:
木のお船が大皿になっている!
生魚初めてです。これはオマールエビ(ロブスター)?のスープ?
こっちは…ウニだ! お醤油をつけてライスと食べるですね。

ソフィア:
あはははっ! 伊勢エビのみそ汁。こっちが特産の金目鯛の刺身。まぐろもあるよ。
ウニは地中海とあまり味は変らないよ。あと鯵(あじ)。
食べられそうなものだけでもごはんと一緒にどうぞ。

仁香:
いただきます!
ご主人様、日本食というかここのお食事詳しいですね。

ソフィア:
ロンゴミリアドの本拠地がこの南東伊豆の特区だからね

仁香:
これは…ナニ?
まあ食べてみよう…

(岩海苔とワサビの小鉢をそっと箸ですくう)

仁香:
うっ…! こ…これは…また独特な…味ですね…

ソフィア:
あははっつ! ワサビが入っているからね。
ほら、早くオレンジジュースのんだ方が良いよ。

仁香:
はい…そうします…

ソフィア:
まだ着かないの…

仁香:
くすすっ♪ ご主人様、ほらもう展望台見えてますから!
というかまだ5分も歩いてないじゃないですか!
どんだけ運動不足なんですか。

ソフィア:
わたしはね、室内しか歩いちゃいけないんだよ。

仁香:
あははっ♪ そんな決まりはありません♪
ほら、行きますよ!

仁香:
海風が気持ちい!
それにこういう所から見る海も、新鮮ですね。

ソフィア:
まあ、住んでる部屋のバルコニーから海が見えるから、ありがたみが低いね。

仁香:
地元の観光地を、まずは知っとかないと!

ソフィア:
平日この時間なら空いてるし。
急ぐ旅じゃないし、夜までに東京のホテルに着けば。

仁香:
そうです! ゆっくり、ゆっくりですよ、ご主人様ぁ♪
でも、ご主人様はどこか行きたい所ございます?

ソフィア:
わたしは…仁香がそうやって笑ってくれる所なら、何処でも良い。

仁香:
ひぃぐっ! 不意打ちはズルイですよ…ご主人様ぁ…(真っ赤)

ぎゅっと仁香がソフィアの腕にソフィアにしがみつく。

仁香:
なら‥‥メイド仲間に行く前に教わったんですが…
お外でお部屋が時間で借りれる…その…所で…
ご主人様に甘えたい‥‥そのあと…

ソフィア:
ひぃぃっ! 仁香、そういうのは夜まで待とうよ? ねっ?

仁香:
えぇ…お腹いっぱいになったし‥するとですね…ちょっとエッチに…

ソフィア:
食欲が満たされたから次は性欲って…
それは刺激される中枢が近いけど…
だから…シナイとは言わないから…
そういうのは夜まで待って…途中で始めると目的地に着かなくなるから。
目的地に着くまでお預け!

仁香:(むくれてほっぺたふくらませ)
ぶすぅ~!

ソフィア:
この海岸線を行って…
よし、鶴岡八幡宮でも行こうかな。
「いざ鎌倉へ!」

仁香:
ご主人様のイジワル…。
 
由美恵:
(戦場より緊張する。なんか空気がピリピリしてる……)
(ご主人様……まったく動じてない。こんな場でも、堂々としてる……)
(……ううん、そうじゃない。堂々というより……もう「決めてきてる」顔だ)

エステル:
皆さま……
本日はご多忙の中、当評議会にご参集いただき、誠にありがとうございます。

ここ数ヶ月、皆さまのもとにも、
武装勢力による実行作戦の情報が届いているかと存じます。

そう──

本来であれば戦場から遠く離れたはずの日本。
その地にある“エンパイアクラブ本部”、
まさに今、皆様がこうしてご着席されているこの場所が、
旧評議会議長・セリア・ヴィクトリアを首謀者とする武装組織によって、
アーマーメイドと強制使役されたメイドたちによる武力侵攻の標的とされたのです。

エステル:
この「評議会」こそが、まさに狙われたのです。
この議場そのものが、“戦場の中枢”として計画されていました。

だが、狙われたのは私たちだけではありません。

本作戦では日本政府機関のみならず、
民間都市部すら攻撃対象に含まれ、
多くの一般市民が命の危険に晒されました。

これは内部抗争ではなく、
政治的な摩擦でもなく、
現実に発生した「戦争行為」であり、
我々の日常がすでに「戦場の延長線」にあるという、否応ない証明です。

だからこそ今、ここに皆様が集っている意味があります。
この評議会は、「始まりの会議」であると、私は信じております。

エステル:
この異常事態を受け、各国は即座に防衛力の見直しと、
迅速な即応体制の確立に向けて動き始めました。

今、最も注目されているのが──

量産型アーマーメイドの緊急配備計画です。

その中核を担ったのが、我がミリタリア防衛部隊にて投入された、
量産型アーマーメイド「守人(もりと)」。

この守人を開発・提供したのが、
評議会メンバー・「月空來奈(つきぞら らな)」評議員が率いる、
月空アームドインダストリーでございます。

皆様の中には、すでに「守人」の名をご存じの方もおられるでしょう。

ですが、言葉では伝わらないものもございます。
ここでまず、守人の実戦映像をリアルタイム中継にてご覧ください

SE:
シュビィーーン! シュヴィィーーン!

SE:
ゴガーン!

一瞬で破壊されるF35

SE:
ガシャン!
蹴り飛ばされてスクラップになるアパッチ攻撃ヘリ

会場:
おぉ・・・・

SE:
ゴオオオオオオオンっ!

次々と破壊され爆炎となるM1A戦車

会場:
驚愕に静まりかえる会場

エステル:
──いかがでしたでしょうか?

資料の23ページに、
守人と戦闘機群との性能比較と運用コストがまとめられております。

そして右下に記載されているのが──
守人の本体価格でございます。

(空気が変わる)

……本会議では声に出すことは控えさせていただきますが、
すでにお察しのことでしょう。

(会場、どよめき)

「この価格で…?」
「リース可能…?」
「維持費込みでこの数値…?」

エステル:
──「ご納得いただけたようで、何よりですわ」

エステル:
このプロジェクトは兵器の話ではありません。
これは、新しい秩序と安全保障の選択肢です。

✦ 実戦力
✦ 産業連携
✦ 安全保障の再構築
✦ 民間とメイドの共存

──そして何より、皆様の事業分野との協調によって拓かれる未来です。

ただの収益ではありません。
誇りを伴う投資。
争いを減らす参加。

皆様の「未来への一手」を、
ぜひ、この場から踏み出していただけますと幸いです。

エステル:
それでは、これをもちまして──

第76回エンパイアクラブオーナー評議会 総会 開幕セッション
これにて終了とさせていただきますわ。

明日以降、分野別の実務部会・契約調整が順次開始されます。

本日はどうか、自由にご歓談とご準備の時間をお過ごしくださいませ。

……皆さまのご判断と、未来へのご参加を、心より楽しみにしておりますわ。
 
オーナーA:
やっぱり、災害救助用の展開は会社のブランドとして進めた方がいいかと。私の方で出資しましょう。

オーナーB:
俺にも出資と運営、参加させてくれ。ルゥナ様、いいかな?

ルゥナ:
もちろんです! 他のオーナーの皆さまとも相談して、具体的な分担は――明日のラウンジテーブル会議で決めましょう。

オーナーC:
まずは各スキームの概略設計を出して、それに合わせて出資者と担当を決める流れですね。了解、そういうの得意なんで、俺が明日までにまとめておきます。

ルゥナ:
そんなに頼ってしまっても……ありがとうございます、お願いします!

由美恵:
梨音先輩、ご主人様……
オーナーの皆さまたちが、ルゥナ先輩のプレゼンのあとで、喝采して――
あんなふうに取り囲んで協力を申し出てくれてるってことは、大成功なんですよね?

なのに……
どうして、そんなにお顔が晴れないんですか?

梨音:
人間の社会には、二つの思想の潮流がある。
ひとつは「生命よりも価値のあるものが存在する」という考え。
もうひとつは「生命に勝るものはない」という考え。

人は、戦争を始めるときは前者を使い、
戦争を終わらせるときには後者を理由にする。
――それを、何百年も、何千年も繰り返してきた。

(引用:ヤン・ウェンリー/銀河英雄伝説)


來奈:
戦争っていうのはね――
いちばん卑しくて、罪深い連中が、
権力と名誉を奪い合う状態のことを言うのよ。

(引用:トルストイ「読書の輪」より)

由美恵:
えっ? えっと……な、なんですか急に?
でも……今回の戦争って、戦争を止めるためにしてるんですよね?

來奈:
戦争を止める……?
そんなもの、止まるわけないでしょ。

梨音:
「その場所では」戦争してない時間があったとしても……
その間、別の場所で戦争が起きてるのよ。
――それだけのこと。

クリスティーナ:
ふふっ……
ずいぶんお二人とも、丸くなられましたのね。

來奈:
うっ……
今、私……SIG一丁しか持ってない……
やっぱり、ここが最前線の最先端だったか……マズった。

梨音:
げっ……
コイツがいるってことは――最低でも、小隊三つは展開してるってことか……
……短刀一振りじゃ、分が悪い。

由美恵:
あの……ご、ご友人の方ですか?

來奈:
……紹介するわ。
この人は――クリスティーナ・バッハシュタイン。
あたしたちと一緒に、何度も地獄をくぐり抜けた「戦友」。

通称「地獄の境界線」
――ここから地獄ですよ、っていう「歩く標識」みたいな存在。

梨音:
他にもあるわよ?
「お嬢様型キリングマシン」、「歩く最前線」、「単独紛争終結兵器」――ってね。
いろいろな意味で、伝説。

由美恵:
な、ナンナンデスカそれ……!?

由美恵:
あの……
月城來奈ご主人様の専属侍従メイドを務めております、由美恵と申します。
本日は、どうぞよろしくお願いいたします。

クリスティーナ:
――由美恵特務大尉。……いえ、「元」特務大尉。
お名前と、ご経歴は存じ上げております。

クリスティーナ:
來奈が……ついにご自身のメイドを迎えたと聞いております。
とても真っ直ぐで、そして強い戦士ですわね。
來奈が惹かれるのも……納得できますわ。

由美恵:
あ、ありがとうございます。
(この人……強い。強さが、わからない……)

クリスティーナ:
――先ほど、あなたが「お二人の顔色が優れない」と心配していたのを、耳にしてしまいましたの。

彼女たちは……希望を語れる人間に、希望を託す側の人間。
でも同時に――
彼女たちはその「善意」と「希望」というモノがどれだけの死者を生むかも身をもって知っている

だからこそ、この華やかな総会場でさえ……
彼女たちには「別の景色」に見えてしまうのですわ。

由美恵:
……「別の景色」……。

來奈:
由美恵は……売らないよ。
あげたりなんて、もっとない。誰にも。

梨音(少し挑発的に):
あなたに……ついてきてくれるメイドなんて、いないでしょ?
――羨ましいの?

クリスティーナ:
あらあら。
お二人とも……少し、言葉が過ぎますわよ。

わたくし、今回は“案内役”として来ただけですのに。

梨音:
……地獄への案内人なら、今さら間に合ってるわよ。

來奈:
今回の商談は、思いのほか上手くいったから。
次の戦場のご案内は、結構です。

由美恵:
えぇぇ……(ご主人様も、梨音先輩も……なんだか、いつもと全然ちがう……)

クリスティーナ:
……それが、常連のお得意さまにかける言葉かしら?
わたくし、時々“いろいろと”――「現場」へお届けしておりますのよ。
弾薬、特殊弾頭、機密性の高い“あれ”や“これ”……ね?

由美恵:
(えっ……お嬢様が……武器の運び屋!? 現場ってやっぱり戦場の最前線ってこと……?)

來奈:
値引きはしてるし。
それに――アンタが付けてくる仕様書、正規軍やPMCよりよっぽど細かいんだから。

梨音:
あれもう「要求仕様」じゃなくてさ……ほとんど「呪い」よ。ほんと。

梨音:
……で? あんた、なんでこっちに来てるのさ?
一応、表向きは栗田閣下の「護衛」ってことになってたよね?
……まあ、護衛にちゃんと付いてるの、滅多に見たことないけど。

クリスティーナ:
用事が片付きましたので、少し早めにこちらへ。
それと――來奈に「ご注文」もございますの。

來奈:
いま、注文? ムリムリ! いっぱい!いっぱ~い!
はーい、却下です! 残念でしたー!

クリスティーナ:
当分はこちらにおりますので、
その間に――よろしくお願いいたしますわね。

來奈:
……ねぇ、わたし今さっき断ったよね?
あんた、聞いてなかったでしょ絶対。

梨音:
あー……これはアレだね。
商品受け取るまで「ずーっと」まとわりつく系だ。

うん、被害者は大変だよね~……私は傍観者だけど。

(※総会場がざわめきを落とし、しだいに静寂へと移る)

エステル:
皆さま――
ご歓談中、失礼いたします。
ただいま、緊急にお伝えすべき報告が届きました。

先ほど――
スエズ運河要塞の奪還作戦、
並びにセリア・ヴィクトリア派へとバイオメイドを供給していた
製造プラントの制圧作戦が――完了いたしました。

この報告は、エンパイアクラブ・ミリタリア中央司令部より、正式に確認されたものでございます。

エステル:
セリア・ヴィクトリア旧議会派に属する軍は、
中東および中央アフリカ方面に展開していた主力部隊が――壊滅。

残存兵力の降伏が確認され、
強制的に使役されていたメイドたちは、すべて無事に保護されました。

(場が静まり返る。彼女は一呼吸おいて続ける)

スエズ運河の基幹インフラにつきましても――
弊ミリタリア工兵部隊の手により、復旧作業が進行中。
十日以内の完全回復が見込まれております。


会場の反応(ざわ…から歓声へ):
……おおおおっ!

ついに……!

(拍手がじわじわと、だが確実に広がっていく)

(会場は歓声と拍手に包まれている)

クリスティーナ:
……というわけで、
わたくし、少しばかり時間ができましたので――
先に日本へ戻ってまいりましたのよ。

由美恵:
本隊が……壊滅……

(來奈がそっと、由美恵の肩に手を乗せる)

クリスティーナ:(小声で)
元・特務大尉。
あの栗田閣下と瑠莉閣下の直率でございましたから――
敵に使役されていたメイドたちの犠牲は、
最小限に抑えられているはずですわ。

梨音:(同じく小声で)
それに……
あのすみれ隊長が、プラント制圧の方へ自ら出たって聞いてる。
きっと、最小限に抑えたはずだよ。



第四話 UNDER/SHAFT 終わり


第五話 borderland へ続く